小説【箱入り息子】の設定・おまけの話
鬼太郎、お前は本当に強い奴だ
こんにちは、子鬼と申します。久しぶりの投稿です。前回の投稿が2022年の1月の絵ログだったと気付いて震えてます。
今回は数年前に書いた小説、【箱入り息子】(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11058743)の設定・落書きをまとめたものです。多分、頭の中身出し切りました。ちょっとしたおまけ話だと思って楽しんで頂けたら幸いです。
↓以下、読了後のおまけのおまけ話。
【夢の許】
鬼太郎の姿が完全に見えなくなってから、俺は椅子に腰を下ろした。鬼太郎が走って行った方向をぼんやりと眺める。
「……本当に、行っちまったなぁ」
椅子に座ったまま独り言ちる。
現実世界の“自分”と同じで、見送られる事は苦手だが、どうも俺は、見送る事にも慣れていなかったらしい。
ほんの少し寂しさを感じつつも、それでも、安堵の方が大きかった。
また、あの笑顔を見る事が出来た。
それだけでもう、充分だ。
「……さて」
一度、空を見上げる。
今日も本当に良い天気だ。
丁度俺が座る長屋の椅子は日向で、時々吹く風がまた心地良い。
今にも眠れてしまいそうだ。
……ああ、そうだなぁ。
いつも隣に座る弟がしていたように、俺もこのまま、この微睡に身を預けてみよう。
(此処も、俺も、……もう、必要ない)
そう、目を閉じようとした時だった。
「ーー蒼兄さん?」
名前を呼ばれて、はっと目を見開いた。聴こえる筈の無いその声に、俺は耳を疑う。
ゆっくりと視線を下げれば、信じられない事に、目の前にたった今見送った筈の弟が立っていた。
「どうしたの?こんな所に一人で座って。てっきり、もう帰ってると思ってたよ」
そう笑う鬼太郎に、俺は混乱しつつもなんとか声を絞り出した。
「鬼太郎、どうして此処に、」
酷く驚いた様子の俺に、鬼太郎は不思議そうに首を傾げる。
「えっと、僕はたった今人間界から戻ってきたんだけど……。ほら、この間、父さんが久しぶりにシュークリームが食べたいって言ってたでしょう?」
そう言うと、鬼太郎は右手で白い箱の入った袋を持ち上げて見せた。
「だから、今日は猫娘もバイトが休みだし、せっかくだからみんなでお茶しようって話になってたじゃないか」
小さく口を開けたまま何も言わない俺に、鬼太郎はぱちりと目を瞬かせた後、困ったように笑った。
「……もしかして、まだ寝ぼけてるの?」
「え?」
「昨日はお爺達に付き合って、随分と遅くまで飲んでたみたいだしね。もうお昼前だよ?」
「珍しいね」と続いた鬼太郎の言葉に、今度は俺の方が目を瞬かせる番だった。
(何だ?一体どうなって……)
その時、俺の脳裏に、以前聴いたとある言葉が蘇る。
『幸せだよ、凄く……。ずっとこの時間が続いたら良いなって思ってる』
ずっとずっと、皆んなと、蒼兄さんも一緒に。
晴天の空の下、そう穏やかに笑った弟の顔。
(ーーああ、そうか)
どうやら、不思議な事に。
この幻(夢)の世界は続いていくらしい。
(鬼太郎……)
目を閉じて、心の中だけで、もう一度だけ先の弟の名前を呼ぶ。
「蒼兄さん……?気分でも悪い?」
俺がじっとして何も言わないものだから、鬼太郎は心配そうに言った。
再び目を開ける。同時に、沢山の音が戻って来る。
「いいや、そう言うわけじゃないんだ。……だけど、まぁ、そうかもな。昨日は飲み過ぎたかもなぁ」
よっこらせ、と腰を上げて、俺は鬼太郎の隣に立つ。
「帰るか」
「うん」
二人同時に歩き始めて、賑わい始めた横丁の中を歩いて行く。
「そう言えば、バイト先で美味しい紅茶が手に入ったからって、猫娘が持って来てくれるって」
「シュークリームに紅茶か」
「食べるの初めてだっけ?」
「ああ。楽しみだな」
「うん、早く帰ろう。父さんも、先に家で待ってるよ」
「はは、そうだな。早く帰らないと、横丁のみんなにシュークリーム食われちまうからな」
シュークリームと聴いて思い出した話。前に、父親へと買って来た筈のシュークリームを、すれ違う住人達に配ってしまったらしい弟。相変わらず人が良過ぎる。まぁ、そこが良い所でもあるんだが。
「……ちょっと待って。何で蒼兄さんがその事知ってるのさ……!」
「あ」
つい口を滑らせた俺を、少し頬を赤く染めた鬼太郎が見上げる。
「……。やべっ!」
この話を教えて来たこいつの悪友には、くれぐれも自分が話した事は内緒にと言われていたんだ。
迷う事なく、俺は小走りで家を目指した。逃げるが勝ちだ。
「あ!蒼兄さん!僕シュークリーム持ってるのに!」
「そりゃ好都合だな!」
慌てた様に後ろを追いかけて来る下駄の音。それを聴きながら、俺は笑みを溢さずにはいられなかった。
おしまい
こんにちは、子鬼と申します。久しぶりの投稿です。前回の投稿が2022年の1月の絵ログだったと気付いて震えてます。
今回は数年前に書いた小説、【箱入り息子】(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=11058743)の設定・落書きをまとめたものです。多分、頭の中身出し切りました。ちょっとしたおまけ話だと思って楽しんで頂けたら幸いです。
↓以下、読了後のおまけのおまけ話。
【夢の許】
鬼太郎の姿が完全に見えなくなってから、俺は椅子に腰を下ろした。鬼太郎が走って行った方向をぼんやりと眺める。
「……本当に、行っちまったなぁ」
椅子に座ったまま独り言ちる。
現実世界の“自分”と同じで、見送られる事は苦手だが、どうも俺は、見送る事にも慣れていなかったらしい。
ほんの少し寂しさを感じつつも、それでも、安堵の方が大きかった。
また、あの笑顔を見る事が出来た。
それだけでもう、充分だ。
「……さて」
一度、空を見上げる。
今日も本当に良い天気だ。
丁度俺が座る長屋の椅子は日向で、時々吹く風がまた心地良い。
今にも眠れてしまいそうだ。
……ああ、そうだなぁ。
いつも隣に座る弟がしていたように、俺もこのまま、この微睡に身を預けてみよう。
(此処も、俺も、……もう、必要ない)
そう、目を閉じようとした時だった。
「ーー蒼兄さん?」
名前を呼ばれて、はっと目を見開いた。聴こえる筈の無いその声に、俺は耳を疑う。
ゆっくりと視線を下げれば、信じられない事に、目の前にたった今見送った筈の弟が立っていた。
「どうしたの?こんな所に一人で座って。てっきり、もう帰ってると思ってたよ」
そう笑う鬼太郎に、俺は混乱しつつもなんとか声を絞り出した。
「鬼太郎、どうして此処に、」
酷く驚いた様子の俺に、鬼太郎は不思議そうに首を傾げる。
「えっと、僕はたった今人間界から戻ってきたんだけど……。ほら、この間、父さんが久しぶりにシュークリームが食べたいって言ってたでしょう?」
そう言うと、鬼太郎は右手で白い箱の入った袋を持ち上げて見せた。
「だから、今日は猫娘もバイトが休みだし、せっかくだからみんなでお茶しようって話になってたじゃないか」
小さく口を開けたまま何も言わない俺に、鬼太郎はぱちりと目を瞬かせた後、困ったように笑った。
「……もしかして、まだ寝ぼけてるの?」
「え?」
「昨日はお爺達に付き合って、随分と遅くまで飲んでたみたいだしね。もうお昼前だよ?」
「珍しいね」と続いた鬼太郎の言葉に、今度は俺の方が目を瞬かせる番だった。
(何だ?一体どうなって……)
その時、俺の脳裏に、以前聴いたとある言葉が蘇る。
『幸せだよ、凄く……。ずっとこの時間が続いたら良いなって思ってる』
ずっとずっと、皆んなと、蒼兄さんも一緒に。
晴天の空の下、そう穏やかに笑った弟の顔。
(ーーああ、そうか)
どうやら、不思議な事に。
この幻(夢)の世界は続いていくらしい。
(鬼太郎……)
目を閉じて、心の中だけで、もう一度だけ先の弟の名前を呼ぶ。
「蒼兄さん……?気分でも悪い?」
俺がじっとして何も言わないものだから、鬼太郎は心配そうに言った。
再び目を開ける。同時に、沢山の音が戻って来る。
「いいや、そう言うわけじゃないんだ。……だけど、まぁ、そうかもな。昨日は飲み過ぎたかもなぁ」
よっこらせ、と腰を上げて、俺は鬼太郎の隣に立つ。
「帰るか」
「うん」
二人同時に歩き始めて、賑わい始めた横丁の中を歩いて行く。
「そう言えば、バイト先で美味しい紅茶が手に入ったからって、猫娘が持って来てくれるって」
「シュークリームに紅茶か」
「食べるの初めてだっけ?」
「ああ。楽しみだな」
「うん、早く帰ろう。父さんも、先に家で待ってるよ」
「はは、そうだな。早く帰らないと、横丁のみんなにシュークリーム食われちまうからな」
シュークリームと聴いて思い出した話。前に、父親へと買って来た筈のシュークリームを、すれ違う住人達に配ってしまったらしい弟。相変わらず人が良過ぎる。まぁ、そこが良い所でもあるんだが。
「……ちょっと待って。何で蒼兄さんがその事知ってるのさ……!」
「あ」
つい口を滑らせた俺を、少し頬を赤く染めた鬼太郎が見上げる。
「……。やべっ!」
この話を教えて来たこいつの悪友には、くれぐれも自分が話した事は内緒にと言われていたんだ。
迷う事なく、俺は小走りで家を目指した。逃げるが勝ちだ。
「あ!蒼兄さん!僕シュークリーム持ってるのに!」
「そりゃ好都合だな!」
慌てた様に後ろを追いかけて来る下駄の音。それを聴きながら、俺は笑みを溢さずにはいられなかった。
おしまい
子鬼(閉鎖垢)
最高でした!!④が一番好みです!でも③も捨てがたい…笑 何度見ても素敵です!本当に有難う御座いました!!
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