【創作】歌わない首

「ええ。ですからね、あたくしは歌いたくないんですの」
 そう彼女はきっぱりと意思を告げた。歌えばさぞかし綺麗で心地の良い、音で。「歌は嫌いなんですの」とも。
「しかし【ミネルヴァ】。君は【歌う首】として製作されたのだろう?【歌う首】といえば世の詩歌いが嫉妬する歌声と言われ、君は12人製作された【長女】にあたる」
「ミスターティトーネ。何を勘違いしているか解りませんが、【歌う首】だからといって歌が好きという訳ではなくてよ。あたくしの様に、変り者がいたっていいのではなくて?」
 ふふ、と落ち着いた鈴のような音で笑う。
「歌が好きで好きでたまらないのは末妹の【アテナ】だけじゃないかしら。でも彼女はすでにパートナーがいるので、【歌う首】が欲しいのならほかの姉妹をあたってみてはいかが?」
 面白そうに彼女は笑う。
 それでだって綺麗な声なのだから、たまらない。
「それでも僕は君に一目ぼれをして引き取ったのだけれどね?」
「あら、首だけしかない女性を愛していると?」
「君が歌ってくれれば首しかないことすら問題視はしないと思うよ」
「なら今のままで、ちょうどバランスが宜しいわね。過剰な期待を相手に、しかも女性にするものではなくてよ。フラントイオ・ティトーネ」
 どうやら僕の手に入れた気難しい女性は、少しだけ僕に興味を持ったらしい。
 銀でできた鳥かごのような専用ベッド(と彼女は言っている)の中で澄んだ水色の瞳がキラキラしていた。

【歌う首】とは錬金術師であるカスティージョ・デ・カネナ師が最後の作品として作った人間をつかったホムンクルスだ。
 正確には人間の死体を使った、だが。
 最初に作られたのがこの【ミネルヴァ】で、彼女が言うには120年前に病死したとある国の令嬢だったという。
 そして【ミネルヴァ】をベースに5体【カーリー】【アストレア】【サラスヴァティー】【リュウキツコウシュ(竜吉公主)】【ティアマト】、改良を重ねて4体【フェイト】【ヴァナディース】【ユファ (柳花)】【ネミッサ】、最高傑作の11体目【ブリュンヒルデ】、そしておまけの12体目の【アテナ】という訳だ。
 彼女らは製作の際、女神や土地神などの名を上書きされ、曖昧な自分の出自情報以外は全部消されているそうだ。
 自分の生前の事をどう思うか聞いては見たものの、【ミネルヴァ】は「興味がありませんわ」と一言言っただけで、趣味の読書に戻ってしまった。ページをめくるのは、メイドの仕事だ。

そして彼女は言う。

あたくし達は原始であり終焉であり、ここにありてないもの……

……と。
8
10
1,162
0
2015-01-01 20:07
調和*Booth/skeb's avatar
調和*Booth/skeb

Comments

No comments

Related works

Load More