逢瀬秘めたる珠櫛笥/サネカズラ擬人化
サネカズラさん。より「普通の女性らしい」服装を目指してみました。ちなみに、胸の五芒星は生薬名の《南『五味』子》から。ピアスとネックレスは言わずもがな果実と花、スカートの裾の波はタマバエの幼虫(2枚目参照)がモチーフです。そんな彼女が活躍(?)するお話は↓から…
『ヴァケーション・バイ・ヴァイン』
晩春の冴え渡る青空の下、植物園は瑞々しい活気に包まれていた。冷え切った冬の帳を脱ぎ捨てる様に広がった様々な若葉も押し並べてエメラルドの如く色付き、日増しに鋭くなる日差しを受け止めている。活気溢れる園内の中でも特に成長著しい一角、多くのコナラやクヌギが立ち並ぶ雑木林を跳ねる人影が一つ。枝から枝へ、自らの体と両腕を振り子の様に使いながら立体的に跳び回る。猿でさえ嫉妬する様な、躍動的なブラキエーション(枝渡り)だ。
「うん、枝折れは無いみたいね…… アシナガやスズメの巣も見当たらないし、特に問題は無さそう!」
入り組んだ樹冠の間を文字通り縦横無尽に跳ぶ『サネカズラ』の仕事は園内の異変をいち早く発見する事。倒木に枝枯れ、園内通路の混雑状況から、自販機の売り切れまで。多忙ではあるが、一か所に留まり続ける事が苦手なつる植物にとってはやり易い仕事だ。
「この調子じゃ、巡回も直ぐに終わりそうね。……どうしようかな、あそこ、行っちゃおうかしら?」
考える間もなくあっさりと決断し、サネカズラは雑木林のさらに奥へと跳んだ。
「さあ、着いた! 休憩だって必要よね?」
彼女はは株立ちになったコナラの根元に降り立ち、三股に分かれた幹に腕と足を掛ける。完全に体重を乗せる前にぐるりと周囲を見渡す。誰かに見られていないだろうか? ここは彼女だけの秘密の空間だ。ちょっとした罪悪感とワクワクするような背徳感を覚えながら、サネカズラは目を凝らす。
『あ、あれ。……余計なもの見つけちゃった?』
サネカズラがふと目に留めた視線の先には、一本の杭。よく見るとその先端は荒々しくささくれ立っている。視線を落とすと、杭の根元には草に埋もれた看板が。何時の間に折れたのだろうか? サネカズラは溜息を吐き、幹へ向き直る。どうせ雑木林の奥は人も訪れない。……なのだが、彼女はもう一度壊れた看板に向き直った。
『……あーっ、もう! 誰も気が付かなかったの? 直すのは私の仕事じゃないけれど…… 全く……』
――数十分後、サネカズラは金槌を片手に汗を拭っていた。たかが看板一つ直すのにここまで時間が掛かるなんて! 金槌を腰のベルトに挿しながら彼女は器用に溜息と深呼吸を同時に吐くと、今度こそといった様に決断的にコナラの根元へ歩を進める。彼女のグローブがコナラの凹凸が目立つ幹にしっかりと組み付き、後は足を掛けるだけ……
「おーい、サナさん? 何してるのかしら?」
サネカズラがぎょっとして振り返る。いつの間にか、悪戯っぽくニヤニヤとした笑みを浮かべる『ヒサカキ』が彼女の背後に立っていたのだ。サネカズラはがっくりと肩を落とした。あの真面目なヒサカキの事、恐らく《休憩》を咎められてしまうだろう。
「あー、うん…… そう! コナラの上で、枯れ枝があってね。伐っておこうと思って……」
「ふーん、金槌で枝を伐るのね?」
「あっ…… これは!」
慌ててベルトを背に回すサネカズラを見ながら、ヒサカキは呆れた様に笑いながら両手を挙げた。
「いや、別にどうって事ないのよ!ただからかっただけ。そんなに慌てなくても……」
「へ? あ、そうなの?」
「サイカチさんから手伝ってくれって言われてね? それでこっちに来てみたら、あんたは挙動不審だし」
「う……」
「……あんたがそんなに楽しみにしている所って、どんな所なのかなって」
もう判るよね? とヒサカキが目を細める。サネカズラも観念したように片手をヒサカキに伸ばした。
「……どれだけ力があるのよ? 怖いぐらいだわ」
片手でヒサカキを背負いながらも、サネカズラは三本の手足で器用に幹を登る。幾つか張り出した葉の層を抜け、二人が辿り着いたのは四方を枝葉に囲まれた空間だった。鈴の音の様なジュウカラのさえずりが響き、葉を透過したエメラルドの木洩れ日が空間を満たしている。サネカズラの背から幹に降りたヒサカキは思わず感嘆の声を上げた。
「……ここが、秘密の場所? ……素敵じゃない!」
「いや、まだだよ。秘密はこの下にあるの」
意趣返しだとでも言わんばかりに厭らしい笑みを浮かべたサネカズラがヒサカキを樹冠から突き落す。張り出した枝葉に鞭打たれながら落下するヒサカキの上げた短い悲鳴は直ぐに聞こえなくなった。
「……なにするのよ。死ぬかと思ったじゃない!」
ヒサカキが上ずった声で抗議する。一方のサネカズラは落ち着いた様子で上からヒサカキを覗き込み、なだめる様に両手を振った。しばらく目を白黒させていたヒサカキだったが、次第に状況を呑み込み始める。幹から突き落とされた彼女の体は地面に激突することなく、先程までと同じ様に緑の空間に文字通り浮かんでいる。クモの巣の如く枝の中に張り巡らされたサネカズラの蔓がヒサカキの体を支えているのだ。まるでハンモックの様に揺れる蔓に翻弄されながら、ヒサカキは息を呑んだ。いつの間にか隣に降りてきたサネカズラも蔓のベッドに寝そべり、してやったりという様な顔付きでヒサカキの顔を覗き込んだ。
「これが、私の秘密基地。どう? 素敵じゃない?」
何層にも重なった葉の隙間から光が漏れる。風が吹く度に形が変わる万華鏡のような木洩れ日が瞬き、その煌めきに思わずヒサカキは瞼を閉じた。闇に包まれた瞳には未だチカチカと瞬く残像が焼付いている。そこへ一陣の風が吹き込み、枝が軋む音と共に不安定な蔓のハンモックがゆっくりと揺れる。薄目を開けて茫然と空を見つめるヒサカキの瞳には、広がる樹冠を満たす光の粒子が映り込んでいた。
「あ、これ…… 海の中に居るみたいね……」
「海底に眠る姫君、ロマンティックじゃない」
「それじゃあ、あんたは王子様なの?」
「イケメンのね。美男蔓だもん」
「……何よそれ」
【サネカズラ/Kadsura japonica】
マツブサ科の半常緑藤本植物。明るい性格で、つる植物にしては自立心が高い。
比較的小柄な体に似合わない程の強靭なフィジカルを活かし、植物園では維持管理・雑務を担当。
【ヒサカキ(illust/52677650)/Eurya japonica】
モッコク科の常緑小高木。基本的には大人しく、感情的になりがちなアオキやアジサイを宥める役回りが多い。
霊的な力(直感力、洞察力)に長け、植物園では事務・救護を担当。
今回は「姫榊」と「美男蔓」だからこその話でした。書き始めた時はまったく意識していなかったのですが、不思議な繋がりもあるのですね。
『ヴァケーション・バイ・ヴァイン』
晩春の冴え渡る青空の下、植物園は瑞々しい活気に包まれていた。冷え切った冬の帳を脱ぎ捨てる様に広がった様々な若葉も押し並べてエメラルドの如く色付き、日増しに鋭くなる日差しを受け止めている。活気溢れる園内の中でも特に成長著しい一角、多くのコナラやクヌギが立ち並ぶ雑木林を跳ねる人影が一つ。枝から枝へ、自らの体と両腕を振り子の様に使いながら立体的に跳び回る。猿でさえ嫉妬する様な、躍動的なブラキエーション(枝渡り)だ。
「うん、枝折れは無いみたいね…… アシナガやスズメの巣も見当たらないし、特に問題は無さそう!」
入り組んだ樹冠の間を文字通り縦横無尽に跳ぶ『サネカズラ』の仕事は園内の異変をいち早く発見する事。倒木に枝枯れ、園内通路の混雑状況から、自販機の売り切れまで。多忙ではあるが、一か所に留まり続ける事が苦手なつる植物にとってはやり易い仕事だ。
「この調子じゃ、巡回も直ぐに終わりそうね。……どうしようかな、あそこ、行っちゃおうかしら?」
考える間もなくあっさりと決断し、サネカズラは雑木林のさらに奥へと跳んだ。
「さあ、着いた! 休憩だって必要よね?」
彼女はは株立ちになったコナラの根元に降り立ち、三股に分かれた幹に腕と足を掛ける。完全に体重を乗せる前にぐるりと周囲を見渡す。誰かに見られていないだろうか? ここは彼女だけの秘密の空間だ。ちょっとした罪悪感とワクワクするような背徳感を覚えながら、サネカズラは目を凝らす。
『あ、あれ。……余計なもの見つけちゃった?』
サネカズラがふと目に留めた視線の先には、一本の杭。よく見るとその先端は荒々しくささくれ立っている。視線を落とすと、杭の根元には草に埋もれた看板が。何時の間に折れたのだろうか? サネカズラは溜息を吐き、幹へ向き直る。どうせ雑木林の奥は人も訪れない。……なのだが、彼女はもう一度壊れた看板に向き直った。
『……あーっ、もう! 誰も気が付かなかったの? 直すのは私の仕事じゃないけれど…… 全く……』
――数十分後、サネカズラは金槌を片手に汗を拭っていた。たかが看板一つ直すのにここまで時間が掛かるなんて! 金槌を腰のベルトに挿しながら彼女は器用に溜息と深呼吸を同時に吐くと、今度こそといった様に決断的にコナラの根元へ歩を進める。彼女のグローブがコナラの凹凸が目立つ幹にしっかりと組み付き、後は足を掛けるだけ……
「おーい、サナさん? 何してるのかしら?」
サネカズラがぎょっとして振り返る。いつの間にか、悪戯っぽくニヤニヤとした笑みを浮かべる『ヒサカキ』が彼女の背後に立っていたのだ。サネカズラはがっくりと肩を落とした。あの真面目なヒサカキの事、恐らく《休憩》を咎められてしまうだろう。
「あー、うん…… そう! コナラの上で、枯れ枝があってね。伐っておこうと思って……」
「ふーん、金槌で枝を伐るのね?」
「あっ…… これは!」
慌ててベルトを背に回すサネカズラを見ながら、ヒサカキは呆れた様に笑いながら両手を挙げた。
「いや、別にどうって事ないのよ!ただからかっただけ。そんなに慌てなくても……」
「へ? あ、そうなの?」
「サイカチさんから手伝ってくれって言われてね? それでこっちに来てみたら、あんたは挙動不審だし」
「う……」
「……あんたがそんなに楽しみにしている所って、どんな所なのかなって」
もう判るよね? とヒサカキが目を細める。サネカズラも観念したように片手をヒサカキに伸ばした。
「……どれだけ力があるのよ? 怖いぐらいだわ」
片手でヒサカキを背負いながらも、サネカズラは三本の手足で器用に幹を登る。幾つか張り出した葉の層を抜け、二人が辿り着いたのは四方を枝葉に囲まれた空間だった。鈴の音の様なジュウカラのさえずりが響き、葉を透過したエメラルドの木洩れ日が空間を満たしている。サネカズラの背から幹に降りたヒサカキは思わず感嘆の声を上げた。
「……ここが、秘密の場所? ……素敵じゃない!」
「いや、まだだよ。秘密はこの下にあるの」
意趣返しだとでも言わんばかりに厭らしい笑みを浮かべたサネカズラがヒサカキを樹冠から突き落す。張り出した枝葉に鞭打たれながら落下するヒサカキの上げた短い悲鳴は直ぐに聞こえなくなった。
「……なにするのよ。死ぬかと思ったじゃない!」
ヒサカキが上ずった声で抗議する。一方のサネカズラは落ち着いた様子で上からヒサカキを覗き込み、なだめる様に両手を振った。しばらく目を白黒させていたヒサカキだったが、次第に状況を呑み込み始める。幹から突き落とされた彼女の体は地面に激突することなく、先程までと同じ様に緑の空間に文字通り浮かんでいる。クモの巣の如く枝の中に張り巡らされたサネカズラの蔓がヒサカキの体を支えているのだ。まるでハンモックの様に揺れる蔓に翻弄されながら、ヒサカキは息を呑んだ。いつの間にか隣に降りてきたサネカズラも蔓のベッドに寝そべり、してやったりという様な顔付きでヒサカキの顔を覗き込んだ。
「これが、私の秘密基地。どう? 素敵じゃない?」
何層にも重なった葉の隙間から光が漏れる。風が吹く度に形が変わる万華鏡のような木洩れ日が瞬き、その煌めきに思わずヒサカキは瞼を閉じた。闇に包まれた瞳には未だチカチカと瞬く残像が焼付いている。そこへ一陣の風が吹き込み、枝が軋む音と共に不安定な蔓のハンモックがゆっくりと揺れる。薄目を開けて茫然と空を見つめるヒサカキの瞳には、広がる樹冠を満たす光の粒子が映り込んでいた。
「あ、これ…… 海の中に居るみたいね……」
「海底に眠る姫君、ロマンティックじゃない」
「それじゃあ、あんたは王子様なの?」
「イケメンのね。美男蔓だもん」
「……何よそれ」
【サネカズラ/Kadsura japonica】
マツブサ科の半常緑藤本植物。明るい性格で、つる植物にしては自立心が高い。
比較的小柄な体に似合わない程の強靭なフィジカルを活かし、植物園では維持管理・雑務を担当。
【ヒサカキ(illust/52677650)/Eurya japonica】
モッコク科の常緑小高木。基本的には大人しく、感情的になりがちなアオキやアジサイを宥める役回りが多い。
霊的な力(直感力、洞察力)に長け、植物園では事務・救護を担当。
今回は「姫榊」と「美男蔓」だからこその話でした。書き始めた時はまったく意識していなかったのですが、不思議な繋がりもあるのですね。
リタ
Comments
Deleted User
2016-05-13 20:51
植物園全域の視察となると特殊能力を持った樹木娘さんであっても大変そうですが、フットワークの軽いカディさんなら適材適所ですね。 蔓を自由自在に使いこなし、空間を縦横無尽に飛び回る姿は「Your Friendly Neighborhood(決め台詞)」にピッタリです。
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木の上のハンモックいいですねー。木漏れ日のなかで寝たらさぞ気持ちいいんだろうなあと情景に浸っていたら、最後のビナンカズラで吹きましたw
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